口座

こひくんが「俺も株でもやろうかなー」と言い出した。
なにを言い出すか。オマエに経済のなにがわかるか。そもそも、そんな金がどこにあるか。
わたしがそう厳しく叱責すると、こひくんはニヤーッと笑みを浮かべこう言った。
「うふー。お金ならなんとかなると思う。」
オマエはあほか。なんとかなるわけないだろうが。そもそも、なんとかってなんなんだ。法を犯す系か。ばかたれが。汚いお金を元手に幸せが築けると思うなよ。
わたしがさらに厳しく叱責すると、こひくんは「違う違う、そういうんじゃない。」と首を横に振りながら、こう続けた。
「うーんとねー、実はねー俺ねー・・・どうしよっかなー言っちゃおっかなー?実は俺ー・・・・隠し口座持ってるの!」


かくしこうざぁ?


なんじゃそりゃ。きみは馬鹿かね。せっかく隠してるならそう易々とばらしちゃだめだろうが。なんで言っちゃうの。聞いちゃったからにはコリャ放っておけないね?そのお金は全部わたしが頂くことにしよう。
「えーっ!!!!」
うるさいうるさい。そもそも隠し口座なんて不良の始まりじゃないの。妻の知らないお金でなにをするかなんてだいたい相場が決まってるんだ。そんな旦那を野放しにする妻がどこにいる。ふざけるな。こひくんの不良化を防ぐためにわたしが泣く泣くそのお金を引き取ろうと言っているんじゃないの。ね?それはわかるね?わかったら、ガタガタ言わずにその口座にいくら入ってるのか言ってごらんなさい。いくらなの?ん?十数万?それともウン十万!?ウヒョー!


「えーっ・・・・・3万円くらい・・・・。」


・・・・・あ、そう。


そっかー・・・・
あー・・・・じゃあまぁ、やっぱいいです。せっかく隠してきたんだから、これからも頑張って隠し続けてくださいよ。
「えー!いいの!?渡さなくてもいいの!?」
あー、いいよいいよ。よく考えたら、こひくんが悪さなんてするわけないんだよ。それに、隠し口座は男の甲斐性とも言える。まぁだから、好きなだけ隠すといいよ。そして好きなだけ株をやるといい。3万円で。
「えーっ、ありがとう!」
いやいや、どういたしまして。



かくしてこひくんは、今日も口座を隠し続けるのであった。3万円の。