海老

夕べ、こひくんは帰りがとても遅かった。
いつもなら、遅くなるときは夕方くらいにメールか電話で「今日は遅くなりそうだからごはんは外で食べちゃうよ。」などと連絡をしてくれるのに、昨日はそれもなかった。もしかしたらどこかで死んでるのかなぁ、と思ってとても心配になった。

心配ばかりしていても仕方ないので、ひとりさみしくリンカーンを見た。
あぁ、こんなにリンカーンは面白いのに、俺はひとり。あいつは行方知れず。人生ってかなしいね。

そうこうしているうちにこひくんが帰ってきて、「えへへ。残業してたらちょっと遅くなっちゃった。」と言った。
わたしはホッとしたと同時に、なんだか怒りが湧いてきた。だって全然『ちょっと』じゃないし。連絡できない理由があったならまだしも、できるならしてくれればいいじゃないの。残業は偉いけど、連絡ひとつよこさないのは全然偉くないよ。ばかばかっ。おデブッ。

わたしがプンプン怒っていたら、こひくんは「ごめんねごめんね。悪いと思ったからみほにプリンを買ってきたんだよ。」と言った。
わたしはプリンが大好きだ。でもこの怒りは、大好きなプリンを持ってしても、そう易々ととけるもんじゃないぜ。
するとこひくんはこう言った。「チョコも買ってきたんだよ。」
えっ!チョコ!
わたしはプリン以上にチョコが大好きだ。プリンとチョコのダブルパンチ。むむ。敵ながらあっぱれ。で、でもダメだいっ!そんなことで許せるかー。甘いものを与えれば女がみんななびくと思うなよ、あさはかなブタ野郎。
わたしのこの強い態度を見て、こひくんはさらにこう言った。
「実はえびせんも買ってきたんだよ。みほ、えびせん大好きなんでしょ?」
えーっ!えびせん!!わたしの大好きなえびせん!!
わたしは、プリン以上にチョコ以上に、えびせんが大大大好きなんだ。あの香ばしい香り。懐かしい味。板状になった薄いせんべいをパキッと口で割ると・・・ああもう。なんちゅうもんを・・・なんちゅうもんを・・・もう涙が止まりません。そんなに素敵なのに、10枚100円程度で買えるなんて!まさに現代の神秘。あんなに安くておいしくて食べでのあるものが他にありますかってんだ。
「それをはやく言ったらいいじゃないの!こひくんのおバカさん!さっきは怒ってごめん。本当は全然怒ってないよ。怒り間違えちゃっただけだよ。ささ、そんなことはいいから一緒にえびせんを食べようじゃないか!」
わたしはそそくさと、こひくんが買い込んできたコンビニの袋をあさった。


―中に入っていたのはかっぱえびせんだった。


アホーッ!!こんなのわたしが好きなえびせんと全然ちがわーっっ!!!!

わたしは気付いたら、こひくんめがけてかっぱえびせんを袋ごと投げつけていた。
アホーッ!アホーッ!えびせんとかっぱえびせんなんて、『ブラックジャック』と『ブラックジャックによろしく』くらい全然ちがわーっ!!こんなもんいるかーっ!!


・・・でも、かっぱえびせんに罪はないので、そのあと二人でポリポリ食べた。おいしかった。こひくんに投げつけたわりに中身がボロボロになっていなかったのは、こひくんがおデブなおかげだなぁ、と思った。