お怪我

料理をしていたら手を切った。スパーッと切った。

心のどこかに「わたしはもう料理ができる!いや、むしろ得意と言っても過言じゃない!」というおごりがあったのだ。わたしは昔からそうなんだ。ちょっとやっただけで、「俺は天才か!?」となる。『一度やった=特技』になる。そしてそれを人にも言う。スキーでいえば「モーグル並み」、ビリヤードでいえば「マチャアキ並み」というようなことを、臆面もなく平気で言ってしまう。大風呂敷をひろげるにもほどがあるぞ!だから怪我するんだバカ!たかだか料理歴1ヶ月じゃないか!シロウトはもっと慎重にやるべきだったんだ!昔の人も言っていた。『おごる平家は久しからず』。いい気になってるとロクな目に合わないんだね。そのことに気付けて本当によかった。こうして、失敗からもなにかを学び取ってしまう俺は、天才か!?


そんなことを考えている間にも、血はボタボタ滴り落ちている。


こりゃーイカン!と、わたしは急いでこひくんを呼んだ。
「こひーっこひーっ!ちょっときてーっ!!絆創膏が必要だーっ!」

「なになにどうしたの??」ととぼけた顔で台所にやってきたこひくんは、真っ赤に染まったわたしの手を見て「うわっ!も、もしかして手切っちゃったの!?」と驚きの声をあげた。普段、わたしの虫さされの痕を見ただけでも「コレどうしたの!?痛くない!?大丈夫!?」と異様なくらい心配してくれるこひくんのことだ。流血沙汰の今回ばかりは、心配を通り越して卒倒するかもしれないね、と思った。

ところがこひくんは、この予想を裏切り、満面の笑顔でこう言った。
「うわーなんかすごい!!料理してて手を切っちゃって旦那さんに助けを求めてくるなんて、なんかすっごく新婚さんっぽいね!!いいね!!」


うわーすげー新婚だ新婚だー、なんか嬉しくない?新婚っぽいの嬉しくない?と興奮しながらはしゃぎまわっているこひくんのそばで、血をボタボタと垂らし続けるわたし。



新婚っぽいかどうかなどどうでもいいから、はやく絆創膏を取ってくれないか?