シード

二人でスポーツニュースを見ていたら、こひくんが「シードってなに?」と騒ぎ出した。画面にはちょうど、なにかの競技のトーナメント表が映っている。

シードといえばアレじゃないか。ほら、ラッキーなアレ。お得なヤツ。

でもこひくんが聞きたいのはそういうことじゃなく、『なんでアレをシードというのか』ということらしい。

「シードって種だよね?なんでアレが種なの?ぜんぜん種と関係ないじゃん。それともシードってなんか他の意味があるの?」

えー、知らん知らん。別にそんなのどーでもいいじゃん。たいした意味なんてないよ。きっと昔のえらい人が決めたんだよ。えらい人の考えることはどうせ俺たち凡人にはわからないって。ほおっておこうよ。そっとしておこうよ。シードはシードでいいじゃない。意味なんてなくてもいいじゃない。それでも俺たち、生きてるじゃない。

頭の中はそんな思いでいっぱいなのに、プライドが邪魔して「知らない」とは言えなかった。だって普段、「わからないことはなんでもわたしに聞け」とか「わたしにわからないことなどない」とか言いまくってるからね!拡げた風呂敷は畳むのがタイヘンだってことを、今知りました。


嗚呼・・・。「知らない」とは言えない。でもまったく知らない。えーなにこのパラドックス!どうしようどうしよう。悩んだあげく、口をついて出た言葉が「えーそんなことも知らないのー?」だったので、自分で自分にびっくりした。わたしのバカッ!これ以上知ったかぶった発言すると痛い目見る!そんな気がする!でも俺の口は止まらない!

「そんなことも知らないでよく生きてこれたねキミは。実はシードって言葉には『種』以外にも深い意味があるんだぜ?」

あぁ!また言っちゃった!自分でハードルあげちゃった!どうにか収拾つけなくちゃ!

「アレだよ、ほら、あのー・・・そう!ガンダムシードガンダムシードってあるだろ!?あのシードも実は、『種』ではなくこっちの意味のシードなんだよ!さぁ、ここまで言えばわかるね!?このヒントを基に、あとは自分で考えなさい!なんでも人に聞くばかりじゃー成長しないからね!」

うまい!うまくごまかせた!知らないってことを隠しとおした!俺のプライドは保たれた!

するとこひくんは、んー・・・と考えてから、こう言った。


「俺、シードの意味はまだわかんないけど、みほが本当はシードの意味知らないんだなぁってことは薄々わかった。」




・・・最初わからないことがひとつあって、結果わかったこともひとつあるんだから、トントンになってよかったじゃない。と思った。