ハゲ茶瓶

こひくんの額が緩やかな速度で確実に後退していると感じる。

このままじゃあハゲまっしぐらだ。海草のおかずを増やすくらいではとても追っつかない。こひくん自身がハゲ回避のための努力をしなければダメだ。
そこで、こひくんに自覚を促すため、こう進言した。
「アンタ、このままじゃ確実にハゲるよ。額の生え際の毛根が死にかけているよ。もうちょっとなにかしらの対策をとった方がいいんじゃないのかね。」
するとこひくんは鬼のような形相で「俺はハゲてない!これからもハゲない!俺の父ちゃんも父方のじいちゃんもフッサフサだ!遺伝の点から見ても俺がハゲるわけないんだ!」と言った。

・・・ん?アレ?母方のじいちゃんは?写真見たことあるけど、確かハゲとったんじゃ?

まぁでも聞く耳を持たないヤツになにを言っても無駄なので、その日はそのまま話を終えた。


数日後、仕事から帰ってきたこひくんがヘラヘラ笑いながらこんなことを言い出した。
「今日、電車の中で目の前に座ってた人が明らかにカツラだったんだよ!俺超ジロジロ見ちゃった!アレ絶対カツラだよー!なんであんなにわかり易いカツラ被るかねー!?」

オマエ・・・・・・・

自分の状況わかってる?人のこと笑ってる場合じゃないんだぜ?『明日はわが身』って言葉知ってるかい?
オマエだっていつか確実に被るときがやってくるんだ。人のことを笑いものにする暇があったら、いまのうちからハゲ貯金でもして将来のカツラ代を貯めたほうがいいんじゃないか?じゃないといつかオマエも、安価でバレバレなカツラしか買えなかったばかっりに、オマエのような心無い人間からジロジロ見られるハメになるんだぜ?

「ちょっとちょっと!何度も言ってるけど、俺は絶対ハゲないの!自分がハゲるなんてこれっぽっちも考えてないの!もしそんなに俺が将来ハゲると思うなら、みほがこっそり俺のためにハゲ貯金しといてくれればいいじゃん!」

なんでわたしが、せっかくのアドバイスを無視するようなオマエのために貯金しなくちゃならんのじゃっ!

「いいじゃん!もし俺がハゲたら、『だからわたしあんなにハゲるって言ったじゃない!んもうっバカなんだからっ・・・・・・・コレ、使って。』ってそっと、こっそり貯めておいたハゲ貯金を差し出せばいいじゃない!」

なにソレ!ちょっと感動的な話になってる!

「そうだろう?だからみほは、今の俺にハゲハゲ言うんじゃなく、万が一未来の俺がハゲたときのために、こっそり貯金をするべきなんだ!俺が、「みほ・・・俺のためにありがとうっ・・・本当にありがとうっ・・・」と涙するような感動を、みほの手で作ってくれ!」

えーーーっ!!!

なんかよくわからんけどわかった!わたし貯金する!こひくんのためにハゲ貯金する!



今からこっそりこつこつカツラ代を貯めることによって、俺たちの未来には大きな感動が待っている。