白い恋人が血に染まる

今日はホワイトデーーーだねっ!!
仕事から帰ってきたこひくんにそう言ったら、「あぁ、はいはい。」と言ってチョコ菓子をポンと渡された。
・・・あれ??
んん??これって・・・チョコ??
こひくんさぁ、1週間くらい前「ねーみほー!俺ねー、ホワイトデーはみほにアイポッドナノあげようと思ってるんだー!」って、こっちから尋ねたわけでもないのに自分からベラベラベラベラしゃべってたよね?そんで、「あー!みほになにあげるかバレちゃったー!ネタバレしちゃったー!うふふー」とか言ってヘラヘラヘラヘラしてたよね?
・・・あれ??
これって・・・チョコ型のアイポッドナノ??
小首をかしげてチョコをしげしげと眺めながらこひくんにそう問いかけると(*1)、こひくんはコチラをチラリとも見ずに、ネクタイを外しながらこう答えた。
「あー。そんなの買ってる暇なかったから。でもみほ、チョコ好きでしょ。」

あぁあぁああぁ!?
きっさまーっ!一体どういう・・・・・・・あ!そっかそっか!そうやって言っといて、実はどっかに隠してあるって作戦だなー?このお茶目さんめっ!(*2)
「は?みほなに言ってんの?それよりごはんー。」
・・・・・・・。(*3)
「はやくー。ごはんー。」 
・・・・・・・。(*4)


ここでわたしはキレた。
キレて、こひくんにチョコを投げつけた。そのチョコをよけたこひくんにまたカチンときて、こひくんの頬を平手打ちした。(*5)こひくんは驚いた顔で「ちょっと!いきなりなんなの!?」と言った。

「いきなりなんなの!?」ではない。オマエこそ一体なんなんだ。

わたしは別に、アイポッドナノがどうしても欲しかったわけではない。(そもそもわたしが催促したんじゃないし。)思ったより安いお返しだったから憤慨したわけでもない。これは金額の問題じゃないんだ!気持ちの問題だ!
オマエのお返しには「みほを喜ばそう」とか「みほを驚かそう」とかいう気持ちがまったく感じられないじゃないか!「暇がなかった」ってなんなんだ!暇がないとアイポッドナノがチョコに変わるのか!いや、別にアイポッドナノが欲しかったわけじゃないけれどっ!でもっ!「みほチョコ好きでしょ」ってどういうことなんだ!わたしはチョコよりアイポッドナノの方が好きなんだよっ!いや、だから何度も言うように、そんなにアイポッドナノに執着してるわけじゃないけど!だけどっ!おかしいやろーが!自分から予告したくせにこのアリサマか!目も合わせずにポンと菓子を渡して終わりか!オマエはそうやって、これから一生「忙しい」を言い訳に手間も金も惜しむつもりだな!?キーッ!手間かける暇がないなら金使えー!ばかー!いや、金の問題じゃないけども!あー!アイポッドナノ!あー!

頭が真っ白になったわたしは、バッシバッシこひくんを叩いた。(*6)こひくんは「そんなこと言ったってしょうがないじゃないかー」とエナリみたいな顔でエナリみたいなことを言った。

散々叩いた後、わたしはわんわん泣いた。(*7)こうして「忙しい忙しい」と言ってるうちに、夫婦はちょっとずつ愛を失くしてなぁなぁになっていくんだね、と思ったら悲しくなった。アナタがアイポッドナノをくれると言っていたのに、全然金額の違うチョコで済まそうとしたから、今日がわたしの仮面夫婦記念日。

わんわん泣くのにも疲れてすんすんすんすん鼻をすすっていたら、こひくんがわたしの頭を撫でながら「みほぉ・・・あのね・・・これ・・・」と言ってリボンがついたCDサイズの包みを恐る恐る差し出してきた。

「なに・・・これ・・・?」そう言って、すんすん鼻をすすりながら包みをガサガサと開くと、それは―
「これ・・・アイポッドナノ?」
「うん。チョコのあとに出して驚かそうと思ったんだけど、出すタイミングがわかんなくなっちゃって。」



だ、出すタイミングなんていっぱいあったじゃないかっ!上↑で(*)ついてるとこ全部そのタイミングだろうが!ばか!7つもあるやないかー!


時計を見たらすでにこひくんが帰ってきてから2時間近くたっていた。


どうしてチョコは投げられなければならなかったのか。どうしてこひくんは叩かれなければならなかったのか。どうしてわたしは悲しみの涙を流さねばならなかったのか。
カポゥが浮かれて過ごすはずのホワイトデーに、なぜ我々は2時間もかけて、まったく意味の無い悲壮なやりとりを繰り広げていたのか。


謎だらけの今回の事件ですが、ひとつだけわかっていることは、こひくん、叩いてすまんかった。